どちらかというとM

京都在住 主に読んだ本の感想を書いていきます

仕事について

障害者スポーツに関する仕事をしています。

特段スポーツに取り組んでいるとか、好きなサッカーチームがあるとかいうわけではないですが、業務として関わるようになって以来、その奥深さにぞくっとさせられることがあります。

 

障害をもった方を支援するという立場で働き始めて以来(社会人になって最初の職場がここになります)、多数派と少数派が社会にはあって障害者は少数派として不便を強いられる存在なのだという意識ができたことと、結局みんな自分のことしか考えていない社会において、多数派が少数派を省みることはなかなか無く、かと行って少数派は少数派の中で分断しあっているようにみえるという認識とが両立して強くなっている気がします。

障害者スポーツの面白いところは、そういった区別と融合との間の微妙なせめぎ合いを、「こうすれば上手くやれるんじゃないか」「こうすればルール上平等に取り扱えるんじゃないか」という軽やかな提案で乗り越えていけるところにあると思います。

回りくどい言い方になってしまうのは、現場でそうした対応をする機会が少なく、文書を通して障害者スポーツに関わることが多いからだとおもいますが、そうした軽やかさは、分断されつつある今の社会において、なにか新たな視点をもたらしてくれます。

なんだかとても「理解のあるひと」のような書き方になっていますが、実際は面倒なことも多いです。イベント運営等に関わる中で、結局障害者を支援する輪を広げる要素がどこにあるのかはわからないままです。健常者である自分が考えることですから、当事者の意に反しているようなこともやってしまっているかもしれませんし、そういった微妙さを内部で判断できる人がいないというのも大きな問題です。
それでも、この曖昧さをまずは楽しむところから始めたいと思っています。

「伴走者」という小説があります。ブラインドマラソンという言葉を聞いたことのある人は少ないかとおもいますが、言葉どおり視覚障害者によるマラソンの伴走をするランナーが主人公です。最初のページから、この小説が太宰治走れメロスをオマージュしたものであることが語られます。

小説としてのまとまりや熱量は全編を通して圧巻です。障害について考える時、それをいかに自分ごととして捉えるか、などという固い決まり文句を飛び越えたところで、圧倒的な実力を持っている2人のランナーが協力し、自分と相手との差がなくなるまでに融合する様は、ああこんな体験をしてみたい、自分にもこんな融け合うような体験をすることができるだろうか、と呆然とさせられます。

社会の問題として障害の有無によりうまれる不利益は解決されなければならない。けれども自分が人生を使い切って楽しめるか、そこに意義を感じ取れるかは、結局その人自身にかかってくるものだとも思います。属性がなんであろうと所属がどこであろうと、その点については変わらないのではないでしょうか。

 

仕事だけでは見えないことだらけの分野で、本という存在が視野に幅をもたせてくれていると思います。

とりあえずそんな感じです。