どちらかというとM

京都在住 主に読んだ本の感想を書いていきます

唯一無二

西を見れば赤が残っていて東を見れば深い青になっている空の下、自転車を強めに漕ぎながら家に帰った。

家に誰かが待っているわけでもなく、いつもより早く仕事が終わったからしたいことがあるわけでもなく、途中の西友で焼きそばの具材を買って帰った。

見るもの全てに言葉がひっついてくる感覚は、大体仕事帰りの程々に疲れていて程々に元気のある時によくある。それこそ空を見ても、同じように帰るサラリーマンやそれを乗せたバスを見ても、焼きそばの麺のパッケージにうつるにんじんの切れ端を見ても、色や形を言葉が頭の中をふわっと通り過ぎて行く。たまにこうして文字に残せる程度には頭にその跡を残して行く。

 

移り変わって行く風景の中にいる時、自分の輪郭を感じる。時にそれは限界や可能性と言い換えられるから、即物的でもあり概念的でもある。

世界の中心で愛を叫ぶ、という小説が流行った頃、勘のいい同級生が、どこにおってもそれは世界の中心やないか、と題名に突っ込んだことを思い出す。自分と相手だけが世界だと言い切れるような経験がないまま二十代後半になったなぁ、とわざとらしく思いつつ、それでも、動き続けている限り自分は世界の中心にいる、と感じる。真っ青な空の下自分の輪郭がぼやけていく感覚も好きだけど、移り変わる空の下ここにいることを改めて感じる感覚も大切にしたい。

そんなことを思わせる唯一無二の空だった。